こんいろきゃべつ

つれづれなるままに

探偵のあれやそれ

探偵についてあれやそれ」 

 

まだ私がうら若き学生だったときに書いたあれやそれ。加筆修正したり、してなかったり。

スナック感覚で「探偵」や「ミステリー」ってなんだろう?って感じてもらえれば状態です。

 

なぜ、ミステリーや探偵という存在は私たちの心を掴んで離さないのか。

それらはいつ頃誕生し、何に支えられ、影響されて存在するのか。

本文では、とりわけ欧米探偵小説から魅力を垣間見ようと思います。

 

 

 1「現実世界の名探偵フランソワ・ヴィドック

 

フランソワ・ヴィドック(1775~1857)

 フランスのアラスのパン屋に生まれ、家の金を盗んでは諸国を放浪。後に軍隊に入隊します。

 しかし、脱走し投獄、獄中で公文書偽造(偽札作り)の罪を着せられ、重罪人としてブレストの監獄でで強制労働の刑に処せられます。

その間何度も脱獄を繰り返し、ついに逃亡に成功して24歳の時自由の身となりますが、至る所で顔見知りのならず者に出会い、いつ密告されるとも知れない危険に脅え、自ら密偵になる道を選びました。

 

彼の功績は1809年保身のためにパリ警察に協力することを申し出ます。

1812年にパリ警察に新設された特捜班の指揮をつめることになりました。

ヴィドックは暗黒社会で得た情報や手口、変装やスパイの技を駆使する一方で犯罪者と犯罪手口を分類したカードを作成し各地の警察に配備するという操作方法を確立することによって、警察に大きな貢献をしました。

その後、警察を辞めてパリに私立探偵事務所を設立します。

 

ヴィドックの波乱に富んだ人生を記録した「回想録」1828年から1829年にかけてパリで出版、翻訳されて欧米各国で無数の熱狂的な読者を獲得しました。

フランスのエミールユゴーをはじめ、アメリカのエドガー・アラン・ポー、イギリスのディケンズコナン・ドイルなど多くの作家がヴィドックの『回想録』を読んで大きな影響を受けたのです。

 

功績

  • 1809年 パリ警察の協力することを申し出る
    監獄内で密告の仕事をして手柄を立てる
  • 1812年 新設された特捜班の指揮を務めることになる
    国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設=パリ警視庁の前身

 

 2「イギリスの警察組織と虚構の警察と探偵」

 

とりわけイギリスの警察体制について書きます。

18世紀イギリスでは、厳しい刑法に依存しながら犯罪に対処し、警察の仕事を素人に委ねるという状況にありました。

それは、教区の治安判事が名誉職として裁判官兼警察長官を務め、教区内の住民が判事を手助けするという形で順にボランティアとして警官になっていたという要因があったからです。

 

1829年ヴィドックの回想録が出版された年、回想録に感銘を受けた内務大臣ロバート・ピールはロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)を創設しました。

これにより、警察は市民レベルから国家的制度に移行したのです。

ですが、長い間なかなか効率的な組織は構築されませんでした。それは、大衆の根強い民間自警団的発想…ボランティアの考え方に妨げられ、効果的な組織をつくるのに時間がかかった点と初期の刑事の勘は良いが、教育がなく、科学的方法を軽視し、コソ泥をうまく捕まえても複雑な事件になるとお手上げ状態であったという点です。

教育がなっていないのと科学的方法を軽視していたのは、イギリスが国教会という宗教をとっていても、未だカトリックの文盲教育影響が残っていたというのが原因です。これは後ほど4でも紹介します。

1843年数件の凶悪事件が起きたことを機に、スコットランド・ヤードに探偵部が設けられました。制服巡査のほかに、犯罪捜査の任務にあたる私服刑事が所属する部局が誕生しました。

 

ですが、現実の世界で警察体制が整ってきても小説の中に登場するほとんどの主人公はいわゆる素人探偵と呼ばれる人達でした。

それは、ポーのディパンや馴染み深いドイルのシャーロック・ホームズ、クリスティのエアキュール・ポアロなどがそうです。

彼らのような探偵は一匹狼的存在。探偵小説には、犯人は読者が最初から知っている人物でなければならない、そのためには初めから一定の限定された人間集団と交友範囲を設定する必要があるのです。そのためには、警察組織というのは巨大すぎる故に必要ではなくなるのです。

 

 3「探偵小説の創始者と国民性」

 

探偵小説の創始者

エドガー・アラン・ポー(1809~1849)

 

探偵小説を生み出したエドガー・アラン・ポー

彼はヴィドックの「回想録」に影響を受けた一人でもあります。

モルグ街の殺人(1841年)」では今までになかった技法が数多くありました。

  • 主として犯罪に関する不思議な謎が提示
  • 数学的・論理的解明を経て、意外な結末に至るという内容
  • 語り手が第三者の「私」という一人称形式

 

主として犯罪に関する不思議な謎が提示され、それを数学的論理的な解明を経て、意外な結末に至るという内容。

探偵という文学上の装置は非情な犯罪を客観的に表現する上にうってつけの存在なのです。

そして、語り手が第三者の「私」という一人称形式。これは後のシャーロック・ホームズに登場するワトソンの原型になる考案でした。この形式はエキセントリックな主人公をワトソンの役割が読者の視点になって物語を進行していくという大きな役割がある。謎解きの小説は常に読者と対等でなければならないのです。

 

 

小説に現れる各国の特徴

 

イギリス

イギリスのほとんどの作家がヴィクトリア期(1837~1901)に生涯を送っていました。

ヴィクトリア朝では「謹厳、堅苦しく、上品な」という中産階級の道徳的特徴に支えられていました。その精神が小説の中にも表れ、人間性の醜悪を描きつつも上品さが保たれ、死体描写などは最小限に抑えられている傾向があります。

 

アメリカ

アメリカでは、地方検事が犯罪人を起訴しなければならず、警察署長はその手腕を示さなければならない。

そこには、常に迅速な成果と強力な行動力への根強い要求があります。これがハードボイルという派閥を生み、反感傷的な文体で、非情で客観的な探偵と荒んだ社会風土をリアルスティックに描写されたものが多いです。人間の行動の側面を描いている作品が多いです。

 

フランス

フランスの国家の警察力に対しては、一般にイギリスにおけるよりもはるかに根強い不信感がありました。不信感があるがゆえに、フランスの探偵小説はより緻密な心理文節、哲学、論理を必要としており、人間をきわめて主情的に扱っています。探偵による謎解きだけでなく、メロドラマ的雰囲気や人間模様の描写を重視する傾向が強いです。

 

 

 

探偵小説は人間を描くもの

探偵小説の客観的視点は人間の弱点を探求する上で格好のジャンルなのです。

元々、本格ミステリー自体がWW1によって引き起こされた中産階級の知的・倫理的低迷の産物であり、大戦による大量死、革命、社会混乱は古い倫理観を揺さぶりました。多くの作家が出兵し、クリスティのような女性作家も看護師として従軍していたのです。

その中で一体誰が悪いのか分からないという深い挫折感を知識層にもたらしました。戦後のミステリー小説の流行は彼らの精神的外傷の代償行為、すなわち自分の倫理観を再確認するというもので構成されています。

 

 4「宗教と国家とのかかわり」

 

これらの人間性を構成している宗教について触れたいです。

イギリスはプロテスタントの国です。しかし、プロテスタントといってもイギリス国教会といって教義や儀典においてカトリックに近いものを残しています。

プロテスタントの宗教教育は文字中心で読書学習に熱心ですた。

対してカトリックはステンドグラスや壁画、彫刻を使って文字を読めない民衆にもわかる「絵解き」教育を行っていました。

その文字教育体系を持つプロテスタント自己啓発書や聖書を良書、娯楽や暇つぶしの書を体堕落な悪書としました。

特にカルヴァン派は娯楽書を敵視しました。そのため、ドイツやスイスには探偵小説が生まれませんでした。

国教会は新しいものに対して寛容的でダーウィンの進化論に対しても頭ごなしの否定はありませんでした。その部分が謎解きや数学的・科学的思考が小説にも反映されていると考えられています。

 

次に探偵小説が生まれなかった国についてです。

思想や宗教により社会主義国には探偵小説が生まれませんでした。

一般的に政治警察や軍事政権の下で密告、盗聴、検問、拷問が普通になっていて、市民的自由が制限されているような国では、証拠に基づく推理によって事件を解決しようといった精神は育たない、また地図や電話帳、時刻表、風景写真までが国家機密とされるような国ではうかつに探偵ごっこや謎探しができる空気はないのです。

 

5「スポーツとミステリー」

 

ミステリー小説は近代的スポーツとともに発展してきました。

どちらも19世紀後半以降のアングロサクソン系の諸国、特にイギリスの特産品です。

ゲームは同等の力量や嗜好、社会的背景の者の間でないと楽しく遊べないことから、どちらも仲間=クラブをつくる集団傾向が働きます。

そして、どちらも中産階級を中心に楽しんでいました。

それは、19世紀半ばからジェントルマン化につれてスポーツクラブが各地でつくられるようになります。

それまでは、貴族領地内や村の広場、路上などで行われていた闘技、競技を自分たちの土地で行うために共同で出資して土地・施設・用具を整え、管理人を置いて休日に楽しむというスタイルが普及します。そして、各地の競技を統一させるために、全国共通のルールが生まれるようになりました。

 

ミステリー小説にも、同質社会、同水準の仲間うちの社交を兼ねた遊びという性格があります。

ルールは探偵作家の同色ギルドの規約のようなもので、読者という消費者に対して粗悪な、規格外の小説を提供しないという、生産者としての作家側の品質保証のための自主規制のルールなのです。

ヴァン・ダインの二十則」「ノックスの十戒」といった、いくつかの自主的なルールはありますが、それの裏手をかく作家もいます。ルールはぶち破る精神の作品も面白いです。

 

 

6「あれやそれ」

 

当時のミステリーというジャンルの探偵小説はとりわけ、科学技術だけに特化したものではなく、あくまで人間を多面的に表現したものです。

謎解きゲームという感覚ではなく、作家読者が倫理的カルタシスを行うためにミステリーに没頭するのではないのでしょうか。

イギリスの探偵小説が発展し、現代に至るまで人気を博しているのは様々なルールがあり倫理観に守られているからかもしれません。

秘密を探る探偵がいる限り、平和があるということです。

平和な国にしか探偵小説、ミステリーは生まれないのです。

 

 

スナック感覚ではないことに気づきましたが、まあいいです。

ミステリーは楽しいので趣味で色々と深めていきたいと思います。

 

 

5/22

あいこさん

 

 

参考文献

・高橋哲雄『ミステリーの社会学―近現代的”気晴らし”の条件―』(中公新書1989年9月25日)

・廣野由美子『ミステリーの人間学―英国古典探偵小説を読む―』(岩波新書2009年5月20日

前田彰一『欧米探偵小説のナラトラジー―ジャンルの成立と”語り”の構造―』(彩流社2008年7月15日)